年若くして神羅の精鋭中の精鋭ファーストクラスソルジャーであり、クラウドの現交際相手でもあるザックスは、人望篤くソルジャーとしての戦績も優秀、持って生まれた類い稀な才能か、何事もやらせれば人並み以上にこなしてしまう。
一週間ほど前のクラウドの誕生日、ザックスの家にお泊まりすることになった。
いつも夜食にお菓子を持参でザックスのマンションを訪ねる。今日もコンビニの袋片手にザックスの部屋のドアを叩き、ここまではいつものパターンなのだが、その日いつもと違ったのは外食店よろしく所狭しとテーブルに並べられた料理の山。ザックスの手作りらしい。目を真ん丸くしたクラウドに、頑張ってみたとザックスは笑う。
手先が器用なのは知っていたが、まさかここまでとは、と嬉しさと驚きで固まるクラウドに、ザックスは驚いた?とウインク一つ。その仕草とか表情、やる事いちいち芝居じみているのに全く嫌な感じがしない。これが他の人間だったら(それがいくら惚れた相手だとしても)クラウドの性格柄間違いなくぞっとするだろうに、そんな事を考える隙が無いほどザックスは文句なく格好よかった。
身体中の血液が一瞬止まった気がした。クラウド?と耳元で笑われ、我に返った心臓が慌てて全力で血を送り出し始め、血管が破れるんじゃないかと言う程どきどき高鳴る胸に手をやる。こちらへどうぞ、と笑いながらエスコートされてキスを受け、クラウドは夢見心地でぼーとザックスを見上げた。
格好いいよなぁ、という感想しか浮かんでこない。クラウドの誕生日仕様と、意識しているらしい気障ったらしい言葉も笑顔も、妙にハマっている。ああ、やばい、なんてちょっと下半身疼いてしまって、コレじゃまるでザックスじゃないかと耳まで顔を赤くした。
優しいし格好いいし、お金も人徳もある。天は一物どころか二物三物与える大盤振る舞い、そのどれも持っていないクラウドはあまりの恋人の出来っぷりに少し嫉妬してしまう。泊まっていくだろ?と言われて思わずこくこく頷いてしまった。後で冷静になって自分の行動を振り返り、羞恥に頭を抱える事になったのだが。
付き合い初めてまだ一週間とは言え、れっきとした恋人同士、勿論一人暮らしのザックスの家にベッドは一つ、とくればする事は一つ。
友達も少なくその手の話をする機会もないから、今どき珍しいくらいその手の事に関しては疎いクラウドだが、仮にも思春期真っ只中の少年、性的なものに対して知識はなくともそれなりの興味はある。
具体的な手順は知らなくても、恋人同士の営みに対して夢を抱くお年頃、食事を終えて蝋燭を吹き消しケーキを食べ、紅茶で一服した後に、シャワー浴びてこいよ、なんて言われたら、否応なしにクラウドの胸は高鳴ってしまった。
俺もついに……なんて頭を冷やすために掛けたはずのシャワーの湯で逆上せそうになりながら至極可愛い事を考えていたクラウドだが、しかし出てきて拍子抜けした。なんとザックス、クラウドの大舞台から飛び降りんばかりに張り詰めた心境いざ知らず、既にソファの上で豪快に鼾をかいて爆睡していた。一瞬事態が飲み込めず、惚けたクラウドの肩から、羽織っただけのシャツ(ザックスのもので元々大きかったのだが)がずるりと滑り落ちた。興を削がれた、
と言うのか。勝手に期待して勝手に盛り上がったクラウドが悪いのだが、途端に力が抜けてしまい、ザックスを起こす気力すら沸かずにそのまま空いたベッドで寝てしまった。
――と、いう話をクラウドが珍しく友人の話の輪に加わった際にぶちまけたのも、どこか釈然としない気持ちを誰かにぶつけたかったからかも知れない。
普段呼んでも離れていくクラウドが自分から寄ってきたもんだから、まわりはやんややんやと喜んで、なんかあったか?ん?と必要以上に弄り倒す。いつもならそんな低レベルな反応、一顧だにしないのだが、クラウドはやけに真剣な顔で実はさぁ……と切り出した。クラウドの恋人が今をときめくソルジャーザックスと言うのは周知の事実。
大衆の知名度はソルジャーセフィロスに及ばないまでも、英雄の右腕として常に戦場に立つ彼は、野性的な容貌と兄貴肌の面倒見のいい性格が相まって、ある意味、ソルジャーを目指す一般兵からは英雄に勝るとも劣らぬ羨望の眼差しを向けられている。
同じソルジャーでも、人間離れして神掛かった英雄より、どこか人間臭いところが女性にも受けるのか、よくもてる。とても、すごく。
だからと言ってとっかえひっかえ、と言う訳でもなく、その時々で至極真面目にきっちりしたお付き合いをしているようで、今だってクラウド以外に恋人の影はない。
クラウドの前に付き合っていた恋人は、秘書課の神羅でも指折りの美人で、容姿だけじゃなく性格もさっぱりとした仕事もできるキャリアウーマン、正に美男美女のカップル、と噂されていたのを、色恋沙汰に疎いクラウドだって知っている。
それに比べたらやっぱり俺なんてまだガキで、しかも男だし……と落ち込むクラウドを、物凄い珍しいもんを見たと言わんばかりに凝視していた友人達は、なぁどう思う?とクラウドに聞かれてはっと我に返った。
色恋沙汰に興味はあれど経験少ない彼ら同輩は、顔を見合わせる者やら、「それはクラウドに気遣ったんだって!」とフォローする者やらで、その反応は十人十色。やっぱり俺…とだだ凹みのクラウドに、慌てて全員一致でフォローに回る。皆に持ち上げられ浮上しかけたクラウドに、何も言わず考え込んでいた友人の一人が口を開いた。
「……ザックスさんの元カノさんって、あれだよな、秘書課の」
たぶんそうだけど、とクラウドは首をかしげる。そうか……と彼が顎に手をやるのを、思わず一同注目して見た。何事かひとしきり呟いた彼は、自分に視線が集中しているのに気が付いて、いや、なんでもないぜ?とあっけらかんと言う。
なんだよそれ、散々思わせ振りな事言ってさーと誰かが言って場が白け、ちょうど良い具合に昼休みが終わるのにあわせて、自然と話の輪もお開きになった。
「ストライフ」
その帰り、今日は余計なこと喋りすぎちゃったよな、と軽い後悔を覚えながら、けれど気持ちは幾分軽くロッカールームで荷物を詰めるクラウドの背中に、さっきの少年が声をかける。何、と振り返ると、彼の表情はとても深刻で、声も硬い。
ちょっと、と有無を言わさず腕をひっぱられて、ロッカールームの隅につれてこられた。
「なに?」
「……俺、ねーちゃん秘書課にいるから知ってるんだけど」
「え?」
「ザックスの、元カノさんの話」
「………え、が、なんだよ」
どきん、と胸が鳴る。んー、と頭をかく友人からは、言いにくい事があります、というのがありありと表れている。
「ザックスさんと別れてちょっとしてから、会社辞めて実家帰ったんだよ。なんか表向きは、くにのお袋さんが倒れたって言ってたんだけど」
「……けど?なんだよ」
「ちらっと聞いた人がいるんだって。……もう怖くてこんなところ居れないって泣いてるの」
え、とクラウドが首をかしげた。元彼女の話が出たから、まさかまだ関係が切れていないとかそんな状況を想定していたのに、彼の話は寝耳に水。
思わずそれってなんかザックスに関係あるの?と聞いてしまった。
「いや、そうなんだけど。でもちょっと気になってさ。時期的にもかぶるし……それにあの人、怖い噂とかあるし」
「こわい?」
「戦績の割に昇進が遅れてるとか……いや、充分すごいんだぜ?あの年で尉官とか。でも、あの人の活躍考えたら、なんての、もっと上にいっててもおかしくないのにって……で、なんかちょっと問題とかあるらしくて」
と友人が遠慮がちに言うが、クラウドには思い当たるところがまったくない。
付き合った途端に性格が変貌する人間と言うのは男女問わずいるらしいが、幸いザックスはそんな手合いではない。むしろ友人であった時と変わらないか、それ以上にクラウドを尊重してくれているし、セックスを強要してくることもない。手を出してこないことにクラウドが戸惑っているくらいなのに。
「あの人って、もてる割に全然恋人て長続きしねぇんだよな。で、大抵別れたあと、彼女さんの方が会社やめたりとか、くにに帰ったりとか多いらしくてさ。なんかあんじゃねーかなーって言う人は言ってる」
「そう、なんだ」
知らなかった、とクラウドは呟く。ザックスの過去に興味はなかったから、今まで気にした事もなかったじ考えたこともなかった。噂一つで恋人の人となりを判断するつもりはない。ザックスにもクラウドの知らない一面があったという事に少し驚いた程度だ。
友人はクラウドがまったく表情を変えないので、気分を害したのかと勘ぐって、慌てて手を振る。
「噂だし、わかんねぇよ?単にほら、あんだけ格好いいし強いし、妬んでるやつも多そうだから……おまえの話聞いててもいい人だし」
ザックスはいい奴だ。それは、恐らく今一番プライベートな時間を多く共有しているクラウドが思うのだから、間違いない。他人が無責任に吹聴する噂よりその確信の方がよっぽど信頼に値する。
誕生日の夜に手を出してこなかったのだって、落ち着いて考えれば、友人の言うとおり、大切にしてくれているんだろうとクラウドの中では決着の付いた話だった。
「まぁ、またなんかあったら相談くらい乗るし」
と手を振る友人に、たぶんそんなことないだろうけど、ありがとう、という位の気持ちで手を振った。


誕生日の夜以来ちょこちょこザックスの家でお泊まりをすることになって、大抵そんな夜は外食、もしくは気が向けばザックスの手料理をご馳走になった後、いっぱい飲みながら借りてきたDVD鑑賞会、というデートコース。同じベッドで一夜を共にしてもザックスは非常に紳士的、キスはしてもそれ以上しようとはしない。たまにじゃれる様に首筋を甘噛みし、くすぐったいとクラウドが笑う程度。こんなんで良いのかな、とクラウドが心配してしまうくらいで、ある日ちらっと聞いてみた。
「……キスばっかだよな、ザックスって」
それはクラウドにとって、とてつもない羞恥心を伴うものであったが、そこは恋人同士の夜の雰囲気にあてられたところが多々ある。流されやすい性格だったのかな、と指を絡めながらクラウドは苦笑した。
そうかなぁ、とザックスが優しく唇を寄せて笑う。
「俺のこと、好きじゃない?」
クラウドの言葉にザックスはじっとクラウドの顔を見た。言った本人は冷静を装っていても心臓ばくばく、顔から出火寸前。黙ってしまったザックスに耐えきれなくなって、やっぱ今の忘れて、と顔を真っ赤にしてザックスの視線から逃れるように頭を振った。
「……いや」
「なんだよ……」
「俺、さぁ」
ぞくり、と背筋に快感が走った。ザックスがクラウドの首筋をべろり、と舐めたのだ。
舌のざらざらした感触と今まで聞いた事のなかったザックスの夜の声に、クラウドの喉の奥から引きつれた音が出る。
「クラウドの事がすっげぇ好き」
「……ザックス」
「好きだよ。クラウド」
ストレートで飾り気ない言葉に、クラウドは心の芯からあったかいものが沸いてくるのを感じる。俺もだよ、と感極まって彼の頭を抱くと、もぞりとザックスが動いた。
「だからすげえ……食べたい」
ん?とクラウドが首をかしげる。なんとなく、ザックスの言葉が引っ掛かった。
「……食べるの?」
「ああ」
「それって、セックスって意味で?」
ザックスが頭をあげる。ザックスの蒼い目が、まるで内側に光源を持っているみたいに煌煌と揺れていた。
え、とクラウドは身を堅くする。何か、おかしくないか?と感じ取ったのは本能の部分だ。
「……クラウドは」
「うん?」
「人間食ったことある?」
突飛な言葉に一瞬それを理解できず、反応が遅れた。頭より身体が先に逃げる方向に動き、そしてそれよりもザックスの腕がクラウドを引き寄せるのがはやかった。
腕の中に拘束されて息を飲み、完全に硬直したクラウドがザックスの目に映りこむ。ごくり、と唾を飲み下した。
辛うじて動いた唇で、問い返す。
「………にん、げん?」
「そう、人間」
「あるわけないじゃん……そんなの……」
ザックスの瞳が熱を帯びている。ギラギラ光る、という形容詞をクラウドは知っていたが、彼の瞳はまさにそれを体現していた。まるで油が膜を張ったよう。どこか熱に浮かされたザックスの視線が、クラウドを通り抜けてはるか遠くを見ている。
「ウータイの……ってもかなり奥地の因習なんだけど。敵兵の生肝を食べたら死なないっていう」
クラウドはぎょっとしてザックスを見た。
優秀なソルジャーであるザックスが、かのウータイ戦役で最前線密林の奥地まで赴いていたことは知っていた。と言ってもそれはクラウドが入社する以前の話であり、ザックスも話したがらないから詳しくは知らない。教本の写真で見知った程度だ。それ故、それがどれだけ悲惨であったかは今一つぴんとこないのだが(神羅カンパニー自体が意図的に損失を過小評価したこともその一因で)、かなりの死傷者を出し、無事だった兵士達からも帰還後に大量の退役者が出たのは有名な話だ。ちょうどその穴を埋めるための入隊者募集でクラウドは神羅に入ったのだから。
ザックスの友人も何人か、心身のどこかしらに障害を負って退役を余儀なくされたと聞く。ザックス自身定期的に検査を受けているのもなんとなくだが知っている。それがソルジャー特有のものなのかあの戦争に起因するものなのか、まではわからないが。
とにかく屈強な肉体と精神を誇るソルジャーですら、狂ってしまうほどの戦争の話、か?これは。
冷や汗を書いて身体の表面は冷えているのに、中はどくどくと熱を持っている。
ザックスが今しているのは何の話だ?――なぁ、なんかおかしくないか?
「あいつら、一応こっちの人間なんだけど。死体見つけたらずらっと死体取り囲んで、止めさせようとしたんだけどやめなくてな。手際いいんだよ、慣れた奴がちょっとナイフ入れてぱっと出しちまう」
ザックスが撫でた部分がぞぞっと総毛だって、咄嗟にその指を剥がそうと伸ばした腕が絡め取られる。
ザックスはクラウドの顔を見ていない。服が捲り上げられて臍窩が露出した腹をいとおしそうに空いた手でなぞっている。
「ザックス」
「ここから出すんだけど」
くいくい、とザックスの指がクラウドの腹を押す。身体の全神経が集中して、肋骨の切れ目、薄い皮膚に覆われた臓腑が圧迫され悲鳴をあげた。内臓が収縮して、喉まで空気と一緒に酸っぱい物がこみあげてくる。それは赤い。
……ないてたって、こわいって。
混乱した頭に友人の言葉が蘇り、知らないはずの女性の嗚咽にむせて震える背中とザックスの蒼い瞳、自分の体内に巡る粘性の強い赤い液体がぐるぐる渦巻くイメージが、まるで見てきたかのように脳裏に閃く。
「こっちのまわりの奴らはげーげー言って吐き出すしさ、ゲロの臭いと死体って想像するだけで最悪だろ?やってらんねぇはずだったんだけど、妙に興奮しちまって、そいつらに交じってずっと見てたんだけど」
あんた何言ってんだ、と言うことすら出来ない。怖い、怖い、怖い、とクラウドはまじないのように繰り返した。声は出ない。
「でもな、喰いたいとかは思わなかったんだ。だってあいつらみんながりがりで骨浮いてるし皮ばっかだし血泥臭いし蛆わいてるし。違うんだよ、なんでも好いわけじゃなくて」
「い、」
言葉とも悲鳴ともつかない声が喉から漏れ、ザックスの言葉を遮った。中途半端で奇妙な音は、自分のものであるのにクラウドの不安を増幅させた。
ザックスが死体の傍らにしゃがんでそれを見ている。浮いた肋骨の下にナイフの刃が入り皮膚と脂肪を裂いて、その喉元に空いた穴から肺にまで届かない空気の抜ける音がする。
「――いやだ、いやだ!!」
クラウドは精一杯手足をばたつかせた。よぎった不吉な情景を振り払うように、首の付け根がおかしくなるくらいめちゃくちゃに頭を振った。
「お、れはっ…」
ぼろぼろ涙がこぼれて鼻水も垂れて、唇までつたう。しょっぱいのにも構わず嫌だ嫌だと叫ぶ唇を、ザックスが塞いだ。
一瞬止まった悲鳴は、しかしザックスの唇が離れるとまた口をついた。
「……クラウド」
「いやだ……!!」
ザックスが穏やかな目で、涙でびちょびちょになったクラウドの頬を撫でる。
「愛してる」
「いや、だ……!!」
熱く囁くザックスの声から逃れるように必死で身を捩ったところを、肩を掴まれ俯せに、顔を枕に押しつけられた。後ろ手に両手を捕えられ、いやだ、と呻きながら、クラウドはわずかに自由になる頭を必死に振り続ける。
「クラウド」
ザックスが優しく囁く。一瞬恐怖を忘れ甘い声に身を委ねかけるが、理性を手放すには足りなかった。圧迫された肺から、ぶり返す恐怖で嗚咽が漏れる。
寝間着代わりのジャージを下着ごと引きずりおろされる。尻を露出した惨めな姿にも恥じらう余裕なく頭を振る。
ザックスの身体がクラウドの足を割り入って、意思に反して秘部が晒される。
「食べないよ、食べないから」
肩胛骨の窪みに舌をそわせながらザックスが囁く。
「嘘、嘘だ……」
「本当だって」
熱に浮かされてうわごとを繰り返すクラウドを、赤ん坊をあやすように宥め、なぁ、ほんとに食べたりしないから、とザックスはクラウドの耳たぶを甘く噛んだ。
普段なら何気ない恋人同士の行為にも、クラウドはひ、と身体を強ばらせる。
食べないよ、とザックスが言う。
びくびくとクラウドの身体が跳ねる。可哀相に恐慌状態に陥って、恐怖と快楽が内混ぜになった刺激をもうそれとは区別できず、ただただ刺激に反応して興奮して局部を勃起させる。
かわいい、と呟きながらザックスは自身のそれを慣らしてすらいないクラウドのそのに無理やり挿入した。
亀頭が引っ掛かるのもお構い無しに腰を押し進めると、めり、と言う嫌な音がして、クラウドが背を反らす。ひゅう、と空気が抜けたクラウドの白い喉元をザックスは手で支え、枕に顔を埋めさせまいとした。
痛みで目を見開くクラウドの耳元で愛してるよと言いながら、無心に腰を振る。
「食べないよ、……まだ」
クラウドの体内から血が溢れ潤滑油の代わりに摩擦を緩和し、ザックスは幾分か表情を緩ませた。
無理矢理の行為はさすがにザックスのそれにもきつかったのだが、クラウドは気付いていない。
血の臭いが濃く部屋に満ちる。
愛してるよ、とおそらく聞こえていない恋人の耳元でザックスが囁くと、クラウドの身体がもう一度小さく震えた。