明日早いんじゃなかったっけ、とダイニングの入り口から声を掛ければ、ザックスの蒼い瞳がクラウドを見た。ぼう、と浮かび上がる煙草の火と魔晄の目は、その後ろ開けっ放しにされたベランダから臨むミッドガルの街の、ネオンの色に似ていた。ミッドガルの夜は明るく上空まで熱を持っている。
クラウドの気配に気付かない男でもあるまいに、声を掛けるまでザックスはクラウドを見ようともせず、かと言って声を掛けられても応えようともしない。ひんやりとしたミッドガルの風がカーテンを揺らした。煙草に濃いアルコールの匂いがザックスの体臭に交じって、クラウドに届く。
明日早いから一回だけ、と前戯もなく突っ込んで揺さ振られて喘がしておいて、シャワー浴びてくるわといったきりベッドにも帰ってこないと思ったら何を、と近づいて見ればシンクに酒瓶と空き缶が転がっていて、ザックスの手元のグラスは濁っていた。酔えない、とザックスが呻く。口元を引き攣らせる努力すら放棄した、のっぺりとした表情。家にあるだけのアルコールをちゃんぽんにして、それは酔えないんじゃなくて舌が馬鹿になっているだけで、なんて勿体ない飲み方、とクラウドは呆れる。結構いい酒もあったのに。
「ソルジャーって体調管理そんなんでいいのかよ」
「全然駄目」
グラスを奪って一口舐める。舌にくるのはアルコールの刺激だけで味も何もあったもんじゃない。おまえいつか遠征前の調整ルーム入り強制になるぞと言うと、やばい、どうしようとザックスが呟く。呟きながらザックスの骨張った手がクラウドの羽織っただけのシャツの下の鍛えて薄い筋肉の付いた腹筋、肋骨から乳首にかけてを執拗に撫でる。あんたなぁ、とクラウドは嘆息した。
「だから早く寝ろって」
ザックスはそんな事聞いていない様子で、クラウド、と耳元で囁く。
「俺ほんとにやばい」
「だから何が」
「クラウド見ても勃たない」
何いってんだこいつ、と言う目で見ても、ザックスが人の鎖骨に顔を埋めてこちらを見ていないのだからお話にならない。
酔ってるからだ、と至極冷静に現実を突き付けてやる。ついでにさっきは勃ってたじゃん、とも。わかった、と頷くとクラウド舐めて、と言った。…ほんとこいつ人の話聞いてない、とクラウドの眉間に皺が寄る。
「勃たないんじゃなかったのかよ」
「クラウドが舐めてくれたら勃つかも」
酔えないって、こんな酔ってるじゃないかとクラウドは言ってやりたくなって、それでも素直に床に片膝ついて半開きのファスナーからザックスのものを取り出して、「…誰のが勃たないって?」と思わず睨み付けたくなるくらい隆々と膨らんで主張するそれの先端に口を近付ける。遠征前じゃなかったら殴ってるのに、と思いながら、舌を突き出し先っぽを舐め、酒の臭いとザックスの体臭と軽いアンモニア臭のするそれを口に含む。こいつすごい酔ってるんじゃ、と改めて思い、クラウドの口に含むには少し大きいザックスに唾液と舌を絡めて吸う。ザックスの下の毛が顔に当たって気持ち悪い。口をいっぱいに開けて、それでもまだ全部入っていないので吐きそうになるのをやり過ごして喉の奥まで受け入れる。
クラウド、とザックスの腹が震えた。
今日だけ、とクラウドはその腹筋を睨み付けながら思う。今日だけだ。勃たないとか言ってるくせに、クラウドは知っている、巨大な剣を振り回して銃弾を弾き相手の四肢を切り裂きながらどうしようもなく興奮して股間を張り詰めているザックスの姿、屍姦になんて走られるくらいなら自分を相手にしてくれていた方がよっぽどマシだ。
クラウドの髪を優しく梳きながら、なぁやっぱり入れたい、とザックスは呻く。言っている言葉の割にザックスは息もあがってなくて、下手で悪かったな畜生と思いながら睨んでやると、何を勘違いしたのか嬉しそうに口元を歪ませた。腹が立ったとクラウドは、じゅる、と音を立ててザックスの根元まで嘔吐感を堪えながら飲み込み滑らせる。喉の奧に当てて舌で裏筋をなぞり唇で締め付けると、う、とザックスが呻く声がして、口の周りが怠い代わりに得た優越感。
目を閉じてその作業に没頭していたら、不意に大きな手に頭を掴まれ、引き抜かれた。ひょい、とクラウドの身体を反転させた手はそのまま前に周りクラウドのジーンズをかき分け、まだ大きくなっていないそれを見つけだして取り出した。文句を言う暇もなく、もう片方の手が胸の突起をまさぐって、クラウド、と背中につけたザックスの唇が蠢き、肩胛骨と背骨を辿る。直接皮膚を伝ったその動きに、ぞく、と走った快感で腰が砕け、がくがくとクラウドの膝が震え全身から力が抜けるのをザックスの腕が支える。
身体に回されたザックスの腕に縋り、唇を割って入って舌に触れる指を夢中で舐めると、項を強く吸われた。喉の奥、さっきまで口内を犯していたザックス自身を見立てるように今度は、彼の指が入ってくる。舌を突き出し指の付け根を舐めて応えた。ザックスの喉が震えて、出たのは嬉しそうな笑いだった。乾いてざらざらな声でクラウドと囁きながら耳の後ろをザックスの舌が這い、それと同時に駆け上がる快感に身を硬くする。ザックスは、手の中で大きくなり始めたクラウドにゆるゆるとした刺激を加えながら、自身の猛ったそれをクラウドの内股に擦り付ける。毎回の様にそれに与えられる快感を思い出して頭より先にクラウドの身体が反応する。あ、と思わずクラウドの半開きの口から喘ぎが漏れた。クラウドの唾液でべとべとになった指をクラウドの中に挿入して内壁を抉り、悲鳴をあげると今度はぎりぎりまで引き抜かれる。擬似的な排便感と嫌悪感が同時にクラウドの身体を駆け巡り、すぐにそれは両方とも強い快感に変わった。きゅ、とザックスの指を締め付けると、内股にあたるザックスのが硬さを増した。さっきなかった分の前戯を取り戻すべく執拗に責められ、こんなんすんだったら、さっきあんな無理やりする事なかったのに、と快感に追いやられたクラウドの理性が頭の隅っこで思う。
つい先刻慣らされることなくいきなり突っ込まれた入り口付近が擦れてちょっとむず痒く(今更裂けたりしないのがもう)耳に掛かるザックスの、全身酒臭い中で例外ではなく酒臭い息の熱さに背筋を反らせた。
入れていい?と囁く低い声に、その残った理性も吹き飛んで、こくこくと頷く。もしかしたらはやく、とか口走ってしまったかも知れない。ザックスの低い笑い声と共にクラウドの下半身に凶器みたいな逸物が添えられる。クラウドが思わず力を入れて侵入を拒むのを、その抵抗さえ快感だといわんばかりにザックスの圧倒的なそれがゆっくり押し入る。
ひ、と悲鳴が漏れ逃げる腰を掴まれ引き寄せられ、圧迫感に身を捩る。最初の引っ掛かりを無事クリアして一気に最奥まで穿たれ、目には涙が滲み、裂ける、とうわごとの様に喘ぐとザックスが僅かに痙攣する。
すごいイイ、締めて、と毎度囁かれる度にどうすればいいかわからず、とにかく快感に身を震わせ勝手に身体中力が入るのをザックスがどう感じているのか、背中越しに表情を伺い知る事はできないが、代わりにクラウドの中でザックスが大きさを増し雄弁に語る。
ザックスの動きにあわせて腰を振り、声をあげてザックスを感じる。
ベランダから入ってくる夜風が、剥き出しになったクラウドとザックスの身体の体温を奪い、取り残された中の熱だけがマグマみたいにどろどろと体内を侵食していく。
「……ちゃんと帰ってくるから待っててくれな」
「っ、あ…ん…!」
腰を打ち付けられ、ザックスの切羽詰まった言葉にもまともに答える余裕はクラウドにないし、ザックスもそれを承知の上でこのタイミングで言ったのだろう、言葉よりも皮膚にかかる熱い息にクラウドが一際大きな喘ぐ。
「好きだよ」
デートの最中もセックスの間のピロートークですらそんな事言わない癖に、快感でおかしくなった頭でも理解できるストレートな愛の言葉をザックスはクラウドの耳元で囁いて、それに刺激されてクラウドが達してザックスの手の中に精液を撒き散らす。倒れそうになるクラウドの腰を掴み、腰から上を解放してやると、クラウドの細い上半身がくてっと前屈みに倒れる。膝を折らせて四つんばにさせ、その身体にザックスが覆い被さると、喘ぎ声に途切れさせながら、クラウドがザックス、と必死で名前を呼ぶ。
クラウドの細い身体が玩具みたいに揺らされ、ザックスが眉を寄せる。クソ、と舌打ちして、中で、とだけ言うと、クラウドが人形の様に頷いた。
酔えないだの勃たないだの不安定な情緒の一端をのぞかせていたザックスは、酔っておっ勃てて出してしまえばえらくさっぱりした顔と声で、やっぱ遠征前だからって禁欲はよくないよななんてほざく。調整ルーム入りしてしまえ、と毒づくクラウド。無茶をしたからツケがきた。散々打ち付けられた尻がじんじんして腰が重く、下腹部の当たりに鈍い痛み。体内に残ったザックスの残滓が排出されるときにひくひくと震えて、不本意にもザックスを喜ばせる羽目になった。
調整ルームなんて駄目だあそこは、新入りの可愛い可愛い3rd.がいっぱいいるから逆効果、と茶化して言うとクラウドはあ、そ、とにべもない。
寝る、とそっけないクラウドの腕を掴み嘘だよクラウドがいないと、と猫なで声で言うので、何当然の事いってんだと返してやった。
勃たなきゃセックスも戦争もやってらんね、とザックスが言うので、セックスはともかく戦争は、とクラウドは思ったが、しかし新聞やテレビやらメディアを通して見るかの英雄の様に、もしくはさっきシンク横で煙草を吸っていた能面の様な顔で無感動に人を殺しているザックスを想像したら、まだきっと昂揚している方がずっとマシだ、とクラウドは思った。